2年続けての新型コロナへの対応、GIGAスクール構想の前倒し、様々な環境変化を余儀なくされた小学校の教育現場において、プログラミング教育の今はどうなっているのか、プログラミング教育の推進にも強く関わって来られた教育学者、千葉大学教育学部の藤川大祐先生にこの1年の総括の意味で、質問をさせていただきました。小学校プログラミング教育の今、十問十答です。


1)小学校でプログラミングが必修化となってから2年目、この1年を振り返って、まずは全体的な感想を聞かせてください

藤川:2021年度のこの1年は、コロナに始まりコロナに終わりました。学校では感染対策に気をつかいながら、授業の変更や行事の中止・縮小・延期等に振り回されました。これに加え、GIGAスクール構想の前倒しで児童生徒一人一台のタブレット端末が配布され、配布された端末を活用するために苦労して…という状況です。
プログラミング教育は小学校で新学習指導要領が施行された2020年度より必修化されましたが、外国語(英語)が教科化されたことと比べると、プログラミング教育が特に教科になったわけではなく教科書等での扱いも決して大きくないので、やや印象が薄いように思います。
新しい教育活動が入ってくるとき、入る前は教員の側に期待や不安があって注目が集まるのですが、いざ入ってしまうと何をどの程度やればよいかが見えてくるので期待も不安も小さくなり、注目が集まらなくなります。20年前の「総合的な学習の時間」導入のときがまさにそうでした。今回のプログラミング教育も、2020年度に入ってきた段階で、コロナ禍もあり、教員の期待も不安も縮小してしまったように思います。

2)必修化が始まる前と今で、想定外だったことはありますか?

藤川:GIGAスクール構想が前倒しになり、プログラミングだけでなくICTの活用が一気に進んだことです。このため、教員の注目は、日常の授業での端末の活用に移ってしまい、年間で数時間しかないプログラミング教育への注目はかなり弱くなりました。

3)現場の先生方の(プログラミング教育に対する)モチベーションはどんな感じだったのでしょうか?

藤川:もともとごく一部の教員だけが注目していて、多くの教員は目の前のことで精一杯でプログラミング教育どころではなかったと感じます。

4)児童の側の反応はどうでしたか?

藤川:多くの児童がプログラミングに楽しく取り組んでいると感じます。コンピューターを操作すること自体が子どもたちには楽しいものですし、ビジュアルプログラミングでわかりやすいということもあると思います。また、うまくいくかいかないかのフィードバックがはっきりしているので、できなければ試行錯誤したり誰かに教えてもらったりしやすいのもよいと思います。

5)保護者の受け止め方はどうでしたか?

藤川:プログラミングの授業はごくたまにしかないので、コロナ禍でGIGAスクール端末の持ち帰り等の課題もある中で、保護者としてはプログラミング教育にほとんど意識がなかったのではないでしょうか。

6)プログラミング的思考を育むことが目的となっていますが、現場では、教育効果をどのように把握しているのでしょうか?

藤川:プログラム課題を提出させたり、ワークシートに思考の経緯を書かせたりして把握している場合が多いと思います。

7)藤川先生から見て、今のプログラミング教育の一番の問題点はどこにありますか?

藤川:圧倒的な時間不足だと思います。少ない時間数でもよいので独立した教科として位置付けて、体系的にプログラミングを学べるようにすることが必要と思われます。

8)プログラミングを授業に取り入れて良かったことは何でしょうか?

藤川:まだ「良かった」と言うのは早いかもしれませんが、児童が教師に正しいことを教えてもらうのでなく自分たちで考えてプログラムを組み、試行錯誤する様子が見られます。このように自分で問題解決しようとする児童の姿を教員が見る機会が増えていることは、意味のあることだと考えています。

9)今後のプログラミング教育の方向性について、こうあるべきだというポイントがあれば教えて下さい

藤川:プログラミング教育は、論理性だけでなく創造性を育むことのできる教育であり、これまでの教科教育の中ではなかなかできなかったことを可能にします。小学校卒業までに簡単なウェブアプリを自由に作れるくらいにプログラミングの力をつけられるようにできれば、子どもたちのできることは大きく広がります。究極的には教科再編を行い、これからの時代に必要な教科のあり方を検討する中で、プログラミングを中心とした情報科のような教科が小学校にもできるとよいのではないかと思います。

10)GIGAスクールについて、今後の課題と考えるものがあれば教えて下さい

藤川:いたずらとかSNSトラブルとか長時間利用を恐れて、多くの学校で端末の利用が抑制的であることが問題です。デジタル・シティズンシップを育てるというゴールを掲げ、端末の利用を基本的に自由にしつつ、そこで生じる問題を自分たちで話し合ったり教員や保護者と話し合ったりすることが必要です。

藤川先生、どうもありがとうございました。



●プロフィール:藤川大祐先生
fujikawa_as

千葉大学教育学部教授(教育方法学・授業実践開発)。
1965年、東京生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学(教育学修士)。
金城学院大学助教授等を経て、2001年より千葉大学勤務、2010年より千葉大学教授。2010年度千葉大学学長特別補佐。2012〜2013年度、千葉大学教育学部生涯教育課程長。2015〜2017年度、千葉大学教育学部副学部長。2018年度〜、千葉大学教育学部附属中学校長。2018年10月〜、千葉大学教育学部副学部長(附属学校担当)。 2016年10月〜、千葉市教育委員。