日本の教育現場のICT整備やプログラミング教育の現状について、LINE entryの教材開発にもご協力いただいている放送大学客員准教授・東京都杉並区教育委員会ICTアドバイザーの倉澤昭先生にお話を伺いました。教育者として長年にわたり第一線で活躍され、ICT整備においても率先して推し進めてこられた倉澤先生には、現状のプログラミング教育はどのように映っているのでしょうか。

―― 倉澤先生が教育現場でのICT利用を積極的に推進してきたきっかけ、理由などをお聞かせください。

今から約20年以上前の1999年、文部省(当時)によって、「子どもたちが変わる」「授業が変わる」「学校が変わる」ことを目指した『ミレニアムプロジェクト「教育の情報化」』が策定されたことがきっかけでした。

その中で私が試みたことを一部ご紹介します。2001年には、「学校・家庭・地域イントラネット実験校」の校長として、全教室に有線LANを敷設し、音楽集会や朝会の様子を地域メンター(指導者)に向けてライブ配信を始めました。これにより、開かれた学校作りや、家庭にいても授業参観ができるということを考えました。また、4年生では、グループに1台GPS端末を持たせ、教師がPCでグループの位置状況を確認しながら、安全に配慮した遠足を行いました。この時は、GPS端末を使ってダムの高さの計測などの学習にもトライしました。
これらの結果から、今後ICTは教育活動の変革と拡充に大いに役立っていくものと確信しました。

その後、図書室を改修し、常時6台のPCでインターネット検索が可能な環境を作り、保護者・地域への配信や週指導案や通知票作成のデジタル化を検討し、教師の校務の負担軽減の在り方についても検討を始めました。
『ミレニアムプロジェクト「教育の情報化」』は、私にとって、遠い先の夢の出来事ではなく、すぐに実現されていく現実の出来事であり、ICTの教育活用への重要性を実感していたのです。
その後、教育委員会への異動となり学校現場を離れましたが、当時、考え、実践を始めていたことが、今すべて現実になっている状況を見ると大変感慨深いものがあります。

―― 諸外国の学校ICT利用を視察されてきた倉澤先生ですが、日本の学校のICT整備に活かされた点にはどのようなものがありますか?

1.子供が活用するノートPCから、教師が活用するPCへ
2006年に校長として再び着任した学校に、PCルームのPC以外に、教室用ノートPC20台、プロジェクター3台、書画カメラ3台、アクセスポイント3台が配備されました。当時自由にインターネット検索できるノートPCが子供たちに配備されたのは、画期的なことでした。しかし、インターネットにつながるだけでは、学習の幅は広がりませんでした。

2008年、英国のダラム市の学校を視察した際に驚いたことがあります。それは音楽室も図書室もない小さな山村の学校にも関わらず、すべての教室に天吊り型プロジェクターと電子黒板が設置され、教師や子供がそれらを使いこなしている姿でした。英国ではこうした環境が全国すべての学校で整備されていることを聞き、ICTの環境整備と活用は1学校の努力ではなく、文科省と自治体の教育委員会が強力に推し進めていかなければならないとあらためて感じました。

帰国後、20台ある教室用PCを教師用PCに変更し活用することにしました。プロジェクターと書画カメラ、デジタル教科書、有線ユニット型電子黒板を購入し、その活用に力を入れ、研究に取り組みました。しかし、有線のユニット型電子黒板や移動型プロジェクターは、準備に時間がかかるとともに、ケーブルがトラブルの原因となり、日常の授業の時間では使いにくいことがわかりました。一方、書画カメラとデジタル教科書は、当時の環境では効果的な活用は十分にできませんでしたが、その後に大いに期待できる内容のものであることが分かりました。
そして、その研究結果をもとに、天吊り型プロジェクターと書画カメラの全教室への配備の検討を教育委員会に進言しました。

2.電子黒板、教師用授業用タブレットPC、デジタル教科書、書画カメラの区内全校・全教室配備へ
2009年に同じ区内の新たな学校に異動となりました。このころ、電子黒板の機能に大きな変化がスピード感をもって起こり始めました。最初にプロジェクターにスピーカーが付きました。次に、実物投影機とプロジェクターの一体型。そして、DVD再生装置とプロジェクターの一体型が登場しました。このDVD一体型プロジェクターは、音楽の時間、体育の時間、様々な場面で積極的な活用が行なわれ、教師の心にICT活用への灯をつけました。
そのように教師の意欲が高まっていったころ、新たに無線ユニット型電子黒板が登場しました。毎時間、設定する必要がなく、簡単に使える無線ユニット型電子黒板は、デジタル教科書の活用の幅も広げたのです。そして、2013年には、影のできにくい超単焦点電子黒板一体型プロジェクターが登場し、「もうICTが無ければ授業ができない」と教師が口を揃えて話す状況になっていました。

教育委員会は、この研究結果を元に、2014年には区内全小中学校の全普通教室に、壁掛け型電子黒板一体型プロジェクター、教師用授業用タブレットPC、デジタル教科書、書画カメラを配備しました。これらのICT整備とICTの活用方法は、全国から大勢の方々が見学に訪れ、参考にされたという話も多く耳にしました。
この成果は、先生方が、積極的に取り組んだ結果ですが、自分にとっても、ICTの研究にたずさわってきた中で、ICTの環境整備において最も大きな取り組みだったと思います。
ICTの環境整備と活用が進む中で校務用PCも整備され、2010年には、週案と通知票のデジタル化も始まりました。

―― ICT整備において成功した点、また改善が必要な点を教えてください。

さきほど説明したように、私が務めた地区の学校のICT環境整備を行なう中で、良い学習環境が作れたことが成功した点です。

つぎに改善が必要と思われることについてです。
GIGAスクール構想で、全国の小中学校に情報端末が整備されました。しかし、講師として招かれて色々な学校に行ってみると、情報端末は導入されているものの、授業支援ソフトや電子黒板が導入されていない学校も多くあります。
情報端末が積極的に活用され、その効果を高めていくためには、授業支援ソフトや電子黒板の導入が肝となります。ここに予算を十分にとり、充実させていかなければ、情報端末は十分に活用されないままになってしまうのではないかと危惧しています。
それを防ぐために、小学1年生から中学3年生まで、簡単に使えて自由な学びや様々な学習体験を共有できる授業支援ソフトや電子黒板の導入を積極的に進めていただきたいと思います。

―― 小学校では1人1台情報端末導入が概ね実現し、プログラミング教育が開始され2年が経過しました。倉澤先生から見た現状の評価としてはいかがでしょうか?

1.プログラミング教育におけるA分類からD分類までの内容が理解されていない
小学校プログラミング教育の手引で定められているA分類からD分類までの分類を理解しないで、プログラミング教育を行なっている先生や教育委員会があまりにも多いと感じています。
このため、児童を楽しませたい、ロボット教材を動かしたいという理由だけで、プログラミングの授業を行なってしまっている事例が多く見受けられます。このままの状況が続くと、せっかく導入されたプログラミング教育がなくなってしまうのではないかと危惧しています。

2.正多角形の作図や学習内容の理解を深めて欲しい!
正多角形の作図の学習において、手書きでは「内角」を使って作図をしているのに、プログラミングでの作図になると、突然、「外角」を使って作図するように説明している教材が多くあります。しかし、5年生で学習するのは中心の周りの角についてのみで、外角の学習は行なっていません。プログラミングの学習についても児童の学習状況に合わせて展開していく必要があります。ぜひ、LINE entryを使った4年生の角の学習の提案を参考にして、5年生の正多角形の作図のプログラミング学習につなげていただきたいと思います。

学校向け教材「辺を回転させて いろいろな角をかこう」
図1
4年生用のLINE entry教材。倉澤先生の監修の下、制作された。辺の回転が角になるという概念が視覚的に理解できる。

3.6年生理科「電気の利用」のプログラミングの目的は?
6年生の理科の「電気の利用」では、
電気は、①作ることができる ②ためることができる ③流したり、切ったりすることができる ④身の周りの色々なものに利用されている
ということを学んだうえで、生活の中では、プログラミングがどのように利用されているのかを学習するものであるはずです。
例えば、街灯は、暗くなるとついて、明るくなると消える。エアコンの冷房は、暑くなると動作し、設定した温度になると停止する。こうした仕組みをプログラミングとセンサーを使って、体験し、確かめていく学習です。しかし、こうした内容とはあまり関係なく、ロボット教材を動かすことだけに執着してしまっているプログラミングの授業を多く見かけます。
A分類では、各教科等での学びをより確実なものにするために行なうことが主な目的であることをもう一度認識して、プログラミングの学習を行なう必要があると考えています。

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20年以上前から教育現場のICTを活用するため整備を進めてきた倉澤先生をはじめとした現場の先生方の地道な取り組みのひとつひとつが、現在のGIGAスクール構想やプログラミング教育へと続いていることが感じられます。学校現場のICT整備はGIGAスクール構想によって急激に進みましたが、プログラミング教育はやはりまだまだ課題が多いようです。そのためこれからのプログラミング教育がどうあるべきなのかをひきつづき倉澤先生に伺いました。以下のリンクからぜひご覧ください。

【放送大学客員准教授 倉澤昭先生インタビュー2】これからのプログラミング教育はどうあるべきか?


●プロフィール:倉澤昭先生
倉澤昭顔写真

小学校長として、2001年に学校行事をネットで地域メンターへのライブ配信を皮切りに、2014年まで継続して学校のICT環境整備やその活用の研究に取り組む。この間、米国や英国の学校ICT活用の状況を視察。
2014年以降、杉並区教育委員会非常勤研究員、大学非常勤講師として、ICT活用のための研修会や講義を年間100回以上行なう。
2018年、文部科学省実施する各都道府県小学校プログラミング教育担当者等セミナーで、全国10ヵ所で講演を行なう。
2019年、韓国の小学校のプログラミング教育の実情を視察。
2020年より、放送大学客員准教授として、小学校プログラミング教育の講義を行なう他、お茶の水女子大学でゲスト講師として、小中学校の連携を考えたプログラミング教育の実践例をLINE entryを使って行なっている。また、杉並区教育委員会学校ICTアドバイザーとして活動している。